上品で知的。そしておしゃれな方が多いな、という印象を持っています。当院が開院したのは1997年で、もう15年前のことですが、開業先を探しているときに一目で「この町がいい!」と決めたのを覚えています。電車では新宿や池袋なども近い場所ですが、目白はにぎやかすぎず落ち着いていて、どこか洗練されているんですよね。それなのに、下町的な人情味のあるあたたかさもあるんです。古くからのお店のおばちゃんや、仲のいい老夫婦が本当にやさしくって人情味があります。
居心地がよいと、気に入ってくださる患者さんも多いんですよ。予約時間より30分早くいらっしゃって、雑誌を読んでくつろがれる方もいます。インテリア選びは妻に任せたのですが、淡い色の明るさと木肌のぬくもりの組み合わせが、患者さんからしてもリラックスできるようですね。
一般の歯科治療を中心に、あらゆる症状の方がいらっしゃいますが、もともと私は口腔外科医ですから複雑で難しい症例の患者さんも多いですね。口腔外科は難しい抜歯や顎の手術、口腔がんの治療などを行う診療科です。一般歯科に比べ、より専門性の高い治療を中心に行う分野なんですね。私も開業前は大学病院や、大学の関連病院でさまざまな患者さんを治療させていただきました。なかでも、顎関節症の治療は専門的に診てきました。顎関節症とは、顎の関節や周囲の筋肉によって、口を開けるときに「カクッ」と音がなったり、大きく口が開かなくなってしまう状態をいいます。ストレスが誘因になることも多く、最近、患者さんが増えてきています。大学での研究や臨床経験を生かして、多くの患者さんの悩みに応えるよう努力しています。
できるだけ多くの選択肢をお示しして、患者さんが納得できる治療を選んでいただくことです。よくあるのが「この歯はもう抜くしかない」と思われているケースです。ほかのクリニックでそう言われたり、ご自身の経験から思い込まれたりしていることがあるのですが、今は治療技術の進歩によって抜歯せずに治す選択肢がずいぶん増えてきました。治療を選ぶ際は、料金や安全性、時間、QOL(クオリティーオブライフ)など、さまざまな要件がありますが、患者さん自身がなにを優先したいのか。その希望に添えるために、当院では多様な選択肢を用意しています。
硬い物をかんだ時の力などで歯にヒビが入ったりが真っ二つに割れてしまった症例では、「再植」という方法が使えます。一度歯を抜いて、割れた部分を接着剤で接着し、再び同じ歯茎に戻すのです。通常は、歯を抜いてインプラントか入れ歯、もしくはブリッジのいずれかを選ぶことになりますが、当院では再植接着というもう1つの選択肢をご提供しています。再植をすると、義歯やインプラントと違って、歯根膜(しこんまく)という歯を支えるコラーゲンの束を残せますから、物を食べた時の噛み心地も自然なんですよ。もちろん、インプラントや入れ歯にもメリットがあるので、最終的には患者さんが選択することになりますが、諦めかけていた歯を残せる可能性をお示しするのが、当院の務めだと考えています。「再植」は応用範囲が広いのですが、口腔外科の技術と正しい知識を必要とするので、町のクリニックで導入している例は、それほど多くはありません。
患者さんが求めていることに応えられたときは、歯科医師としての喜びを感じますね。顎関節症の治療でも、さまざまな治療法があるんですよ。よくあるのは、マウスピースを装着して顎の位置や方向を調整しながら少しずつ回復するよう誘導する方法ですが、場合によっては別の方法も選択することができます。顎関節症はかみ合わせ・精神的ストレス・歯ぎしりなどの悪いくせというような複数の要素の蓄積によって引き起こされるのですが、その方の関節や筋肉の状態に合わせて、その原因を突き止め、ひとつひとつ消してゆくために診断が大切です。顎の動きや歯のぶつかり具合を診察するのはもちろん、ストレスや夜間の歯ぎしりがないかどうかも詳しく問診しています。顎関節がなぜ、ずれたり動かなくなったりするのか、その仕組みが分かっただけで自然に自分で治すことができるようになることもあるんですよ。かみ合わせが引き金になっている場合は、少しだけ歯を削って調整するだけで治るケースもあります。また、歯と歯がぶつかる刺激に神経反射が過敏になるのが原因の方は、薬を使ってコントロールすることもあります。個別の状況に合わせて、使える治療法の選択肢を提供するよう心がけています。
大学病院に勤務していた頃、他の先生の代診で、ある女性の患者さんを診察したときのことです。その方は“顎関節症”の診断名でした。お口が大きく開かないために通院されていたのですが、原因がよくわかりませんでした。リラックスしていただいて無意識にお口を開けるように手で軽く誘導しただけで、何ヶ月も開かなかったお口が自然と開いたのです。ご本人も一瞬あっけにとられて、そのあとは笑ってしまいました。お話を伺うと、前に通っていた歯科で歯石を取ったときに、ずいぶん怖い思いをしたとのこと。実は私自身、歯科治療が怖いほうなので、その気持ちはよく分かりました。心理的な原因だけで病気になっていたわけで、リラックスしていただく大切さを痛感した一瞬でした。
どうでしょう(笑)。ただ、私は歯科医師を天職なのかもしれないと思うことがあります。歯学部に入学して以来、学ぶことすべてが本当に興味深かった。虫歯や歯周病や咬み合せの仕組みだけでなく、解剖学の実習、人間の体のしくみなど、勉強すればするほど楽しかったですね。
子どもの頃に歯科医院で見た治療ユニットに惹かれたんです。昔の歯科医院は色もメタリックで、子ども心に「かっこいいな」と思いましたね。もともとメカニックなものが好きで、母には「いくつ時計を壊したか知らない」と言われていました。歯学部大学院生の頃は、みんなが手書きで論文を書いているなか、自分だけワープロで書いていたんですよ。当時のワープロはまだ多くが非常に大きな機械でした。ポータブルのワープロが発売されたので、いち早く入手して夢中で操作していたのが懐かしいですね。書き直しが簡単なので、何十回と書き直しの回数が増えてしまったのは大誤算でした(笑)。
治療を諦めずに、ご自分の希望をかなえる選択をされてほしいですね。なかには歯科医師に遠慮してしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、大切なのは患者さんが快適になることです。ご自分にとってどんな治療を受けたいか、ぜひ伝えていただきたいと思います。その期待に応えるために、私たち歯科医師は日頃から勉強して、トレーニングを積んでいますから。「もう抜くしかない」とか「かみ合わせはいまいちだけど、こんなものだ」と諦めずに、一緒に歯とお口を治していきましょう。
院長 大村 欣章